3Dプリンターの選び方として以前に記事を書きました。
その中で「丈夫な筐体のものを選びましょう」と書いていたのですが、その根拠を今回はご紹介します。
熱溶解式の3Dプリンターには色々なタイプがあります。
中でもシンプルな構造で安価なのものも「精度が高い」と書いてあるものもありますが、果たしてそうでしょうか?
下のプリンターを見比べてみると同じ3Dプリンターとは思えないぐらい見た目に違いがあります。
シンプルでスマートな省スペース3Dプリンター
ゴツゴツした外観のいかにも丈夫で重そうな3Dプリンター
これらの3Dプリンターの構造はどちらもプラスチックを溶かして積み重ねるタイプのものですので、材料をガリガリ削って作成するミーリングマシン(切削加工機)ほど丈夫な筐体は必要ないように思えます。
確かに、ミーリングマシンと同程度のゆっくりとした速度であれば問題ないかもしれません。
しかし3Dプリンターはミーリングマシンより遥かに高速に動きます。
しかも、ヘッドには「ノズル」「ヒーター」「ヒートブロック」「サーミスタ」「スイッチやセンサ」「エクストルーダー」などたくさんの部品が乗っかった状態で動くのです。
結論を言うと、高速にヘッドを動かすには、重いヘッドをサッと移動させるだけのモーター出力とそれを支える筐体の剛性が必要です。
下にシンプルな3Dプリンターの略図を書きました。
一番下の土台がベッド、青色が出力品、黄色いのが支柱、中程のオレンジの四角がヘッドでその下にノズル、ピンクがヘッドの移動するレール
という構造です。
重たいヘッドが高速に移動すると、貧弱な支柱はヘッド移動の反動が加わり僅かにブレます。
逆方向に移動しようとすると今度はまた反対側へ支柱がブレます。
このブレは出力品の精度低下につながります。
こういったシンプルな構造の3Dプリンターで綺麗に出力するにはスピードを犠牲にするしかありません。
筐体の剛性がある3Dプリンターでは同じスピードの場合、遥かに安定した出力が可能になることがご理解いただけると思います。
改造:剛性の弱いプリンターでも見た目を気にしなければ大きな家具や壁に固定するという改造をすることでブレにくい状態を作る事も可能ですが移動やメンテナンスは面倒になります。
次にベッドが移動するタイプの3Dプリンターは出力品の転倒に要注意です。
下部が不安定な物体を出力する場合
物体が徐々に縦長になって行った場合、ベッドが移動する速度によっては
出力品がベッドから剥がれてしまい造形不良に陥る可能性があります。
改造:プリンターの構造上、改造方法は思いつきません。
3Dプリンターの出力時の温度は造形精度に関わります。
オープンな筐体のプリンターの場合、ヒートベッドの熱はほぼ外へ放熱されてしまいます。省エネを謳ってるにも関わらずオープンな筐体であればこれは「もったいない」と言わざるを得ません。
小さな物体の出力には問題がなくても縦長になるほど室温の影響を諸に受けます。
クローズな箱型の3Dプリンターの場合、ヒートベッドやヘッドの温度が一時的に内部に貯まることになるので室温の影響を受けにくく安定した温度を保てます。
クローズな筐体の場合、ヒートベッドの温まり方が早いので造形開始までの時間短縮になります。省エネ構造と言えるでしょう。
改造:箱を自作するという手があります。3Dプリンター用の箱の作例は検索すれば沢山出て来ますのでそれだけ温度管理は重要だということです。
「小さい」「軽い」を謳っている3Dプリンターの中には「ギアードモーター」を採用しているものがあります。
これは、一般的に用いられているステッピングモータはモーターだけでも重量があるので、軽量化を図るため小型で軽量なステッピングモーターを用いています。
モーターが軽量なだけだと全く問題ないのですが、軽量なモーターのパワー不足を補うため内部に「ギア」が組み込まれています。
このギアの噛み合いには大なり小なり必ず「遊び」が存在します。遊びが無いとギアとして機能しませんから仕方ないのですが、遊びを最低限にしてあったとしても使用頻度が多くなると遊びが大きくなります。
この遊びが問題で、「左回転(左図)」→「右回転(右図)」と切り替えた際に「バックラッシュ」という現象、つまりある一定期間は動力が伝わっていない状態になるのです。
このバックラッシュは構造上仕方ないことなので、ある程度ソフトウェア的に補うことになりますがやはり限界があります。
よって小型のギアードモーター採用の3Dプリンターは円形の作成はやや苦手となります。(どうしても前後左右の切り換え時にノイズが入る)
改造:構造上改造出来る要素ではありません。一定方向にテンションをかけることで遊びを少なく出来るかもしれませんが、ギアに負担がかかるので摩耗しやすくなるとも考えられます。ギアードモーターを交換するのはかなり手間がかかります。 同じメーカーの同じモーターでも微妙に遊びが違う事もあります。違うメーカーのギアードモーターはステップ角がメーカーによりマチマチなので交換後にはソフトウェアでステップ数の再設定が必用です。そのような理由から出来ればギアードモーター採用機は避けたいと思います。
↓ギアードモータ採用機の例です
3Dプリンターの出力は極めて遅く、10時間以上稼働しっぱなしという状況も稀ではありません。
その間パソコンから制御している場合はパソコンはつけっぱなしになるので、これでは省エネとは言えません。
3Dプリンターによっては「スタンドアローン対応機種」といって元からプリンターのみで稼働が可能なものもあります。
↓こちらはカメラ監視機能付きのもの(クリックで詳細ページ)
改造:スタンドアローン対応でなくても自分でスタンドアローン的な制御をさせることも可能ですのでこちらの方法も踏まえて検討する価値はあると思います↓
個人的な意見ではありますが「密閉度」と「スタンドアローン駆動(監視機能付き)」はABS出力時には必須項目ではないかと思います。
ABSの造形時には有毒性のある微粒子が飛散されます。
微粒子を密閉度の高い3Dプリンター本体に閉じ込め(微粒子なので限界があるが)、換気の出来る部屋で稼動させ、且つ遠隔監視操作をすることで人体への害を最小限にすることが出来ます。
以上を踏まえた上で、僕は
・出来れば金属筐体のしっかりした筐体。
・箱型密閉タイプ。
・ベッドが前後左右に動かないタイプ。
・小型モーターを採用していないタイプ
・スタンドアローン駆動可能なタイプ。
をおすすめします。
↓以下の3Dプリンター紹介では箱形タイプのもののみピックアップしています。